吉村昭『破船』





















強烈!


素晴らしい筆致!


昨年読んで非常に強烈なインパクトを残した『羆嵐』に続く2冊目を読了


吉村昭著『破船』/ 新潮文庫

本屋の吉村昭コーナーを色々物色する中で
これは面白そうだと前々から目を付けていた作品
1980~1981年に連載されていたみたい



いやあ、本当に素晴らしい筆致だ!

(筆致と言いたいだけ笑)


『羆嵐』の時もそうであったが
悲劇的な内容でありながらもエンターテイメント性を備えているところが
この作者の特筆すべきところかもしれない
もちろんそこにはドキュメント仕込みの力量の裏付けがあってこそ
(ただし、エンターテイメントとは言いながら今回もややトラウマ級の筆致)



- - -



物語としては

日本のどこかの漁民の寒村を舞台にした悲劇を綴った作品
周囲と隔絶しているその村では「お船様」と呼ばれる信仰があった
その信仰はまさに共同体の生命の存続に直結していて...

(詳しくはネタバレするといけないから書きません
 が、帯で既にネタバレさせているという狂気!笑
 なので、帯は外して撮影しました&下記の写真はモザイクを 笑)


隔絶された漁村という狭い世界の共同体の(ある種)運命を
九歳の伊作という少年を通して描く

フィクションでありながら重厚かつ繊細な筆致で
吉村昭の想像力と描写力がふんだんに発揮され
ドキュメントとしても風景がありありと思い浮かぶ強烈な1篇となっている


深みのある小説であるから
読む人によって様々な思いが浮かぶと思うが
私的には「"共同体の維持"ってやっぱそういうことだよなー!」と(軽いな笑)



- - -



もはや現代都会人たちにはわからないかもしれないが

かつての"村"などの小さな共同体においては
その共同体を途切れさせることなく持続させていくことが最優先課題であった


今は都会人として(私を含め)
「共同体なんて関係ないよ!共同体になんか属してなくたって生きていけるよ!」と思ってしまっているが
それは大きな勘違いで

共同体が数十万、数百万という規模、あるいは自治体規模、国家規模になっているから
共同体意識が薄くなっているというだけの話

それがまた、戦争や何かの弾みで都会が機能しなくなり
数十戸単位の共同体の世界に戻ってしまえば
その世界だけのルールが自然と生まれ
その中で生きていくしかなくなるだろう
この本と同じような運命にすぐ舞い戻るだろう




自分の"生"よりも 共同体の"生"を選ぶ

今の良くも悪くも"個人主義"的な日本の社会からすると考えられないことかもしれない

共同体に危機が迫った時
「数人でも生き延びてくれれば」と自分の命を投げ打つ
それがいいとか悪いとかの次元ではない
そうしないと共同体が滅びてしまうのだ

実は数千年、数万年と人類はそうして
自然や病や飢餓と戦い 生き抜いてきたはずで

やはり人間は自然を前にすれば
寄り集まって生きていくしかない
か弱い生き物でしかない




そう、この小説にも出てくるように
かつて、共同体の運命を左右するものの大筆頭が「餓え」だった

それは自然の持つ強弱のリズムであり
人間の力でどうこう出来るものではなかった
自然が優しい時もあれば厳しい時もある

そこをどう乗り越えていくか?
人類の数限りない努力の中で
今の"できるだけ自然に左右されない"文明社会が築かれた


ただし少し翻って考えてみると
我々のこの豊かに見える現代社会は
ただ単に「餓えの解消」によって成り立っているに過ぎない

何かの弾みで戦争で散り散りになって
また飢えと戦わなければならなくなった時どうなるか?と考えると
私はこの寒村の"特異な"風習を責められない



当たり前過ぎるけど
いや、当たり前過ぎるから忘れてしまっているけど

食料=生命の維持=共同体の維持

であり すべて密接不可分のものなのだ
(だからこそ食料自給率の低い日本の脆さが懸念される)



私の好きな水木しげる先生も「描いた作品が売れなきゃ即ち餓死ですよー!」と度々仰っていて
戦後生まれの飽食の時代しか知らない人間からすると
「水木先生、また面白おかしく大袈裟に言って~(笑)」とたしなめがちだが

戦争中に餓えや餓死が鬼気迫るものとして現実に存在していた先生からしてみれば
それは真実の叫びであったろうし、生涯を貫く原動力にもなったはずだ
ひいてはそれが先生のワーカホリックとも言える漫画家人生を決定づけた


、、、と話が逸れたが

そうした"餓えとは?"や"共同体の運命とは?"を疑似体験出来るという意味でも
非常に素晴らしい作品だと思うな
amazonで高評価なのも当然の作品だ


















と、言うわけで吉村昭氏の次読む作品ももうすでに買ってある(笑)


お次はこれまた評価の高い

『漂流』

だ!


『破船』の3倍くらい分厚いから
きっと読み応えあるぞーっ
わくわく

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