吉村昭『高熱隧道』
以前に買っておいた小説
ようやく手を付けて、数日で読了
本当に吉村昭の"記録文学"にハズレなしだ
『高熱隧道』(新潮文庫)
徹底的な取材を基に緻密にリアルに描く"記録文学"の名手、吉村昭の
昭和42年に刊行された、実話をもとにした長編小説
"隧道"は「ずいどう」と読みます
今で言う"トンネル"のことね
そう、話は昭和11~15年
第2次世界大戦へと世界が突き進む中の日本
電力生産増強を図りたい国の思惑を背景に
富山県の黒部峡谷で日本電力黒部川第三発電所建設のための
軌道トンネルや水路トンネルの掘削工事が始まった、、
四季の美しさを見せつつも
人間を拒絶する黒部の自然の恐ろしさ
それらが、現場を指揮する技師、藤平の目を通して描かれる
結果的には300人以上の犠牲者を出すことになる
凄惨な戦いが丁寧な筆致で描かれていく
とは言え、吉村昭が『プロジェクトX』的に
「こんな大変なことがありました。でも皆の試行錯誤と頑張りで最後はうまく成功しました。ここにヒーローの誕生です!」
みたいな話で片付けるはずもなく(笑)
(長編小説とは言え)文庫本の厚み的には薄い方だが
様々なテーマが内包された、いつも通り「重厚」な1冊である
"高熱"のタイトルにある通り
トンネルは土木技師たちの予想に反して
"超高温の岩盤"にぶち当たってしまう
そう、ここは温泉湧出地帯でもあったのだ
もはや狂気とも言える、温泉地帯での掘削作業
灼熱の隧道と、極寒の黒部の対比も見事だ
ネタバレは避けたいので(後半ではさらに衝撃的(!!)過ぎる展開も出てくる)
興味がある方は読んで欲しい、としかここでは述べないが
とにかく(題材に対して不謹慎な言い方ではあるが)面白い!
吉村昭の作品はいつもエンターテイメントなのである
出だしは「ん?これはどういう話なんだ?」と思わせながら
次第に展開されていく物語はどんどん加速を増し、
さらにはジェットコースターのように、きちんと随所で山場を盛り込み、
予想もしていない角度から「え~!?こんなことも!?そんなことも!?」の連続
(だからこそ、読む人にはネタバレなしで読んで欲しい)
次がどうなるのかまったく予想がつかず、グイグイ引き込まれて
次がどうなるのかまったく予想がつかず、グイグイ引き込まれて
気付いたら夜が更けても読み続けてしまう(笑)
それが吉村昭作品なのです
肉体労働の現場ではいつも危険がつきまとう
今この瞬間も、日本各地で行われている工事現場だって
関係者以外が知らないだけで、様々な事故は発生しているだろう
時には命にかかわるような事故も
技術や道具機械の進歩で安全性は高まっているとは言え
それを使うのは人間で、やはり現場が危険であることには変わりがないと思うし
そうした人たちの苦労と犠牲の上で
我々のインフラは成り立っているのだなあ、と改めて思う
以上、ザ・読書感想文でした(笑)
そんな吉村昭作品
大量に刊行されているけれど、読むとしたら
次は『関東大震災』か『三陸海岸大津波』かな?(笑)
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